ご好評いただいております、2020年シリーズ企画、『オリンピックイヤーだよ!ギリシャ劇集合』。
たくさんの戯曲作品が候補として挙がる中、大野が「ラインナップから外すのは勿体ない」「どうしても読みたい」と思った戯曲を、「松山抜きでもいいや」「こっそり読んじゃえ!」と開催するのが“こっそり『本読み会』”です。ナンバリングも、「第84.5回」とこっそりとした感じにしてみました。
今回読んだのは、フランスの哲学者であり作家であるジャン・ポール=サルトルの書いた『蠅』。
前回第84回で読んだ「オレステイア三部作」に材を取った、いわばギリシャ劇のスピンオフ?作品です。
ちなみに次回第85回で読むユージン・オニール『喪服の似合うエレクトラ』も、同じく「オレステイア三部作」をベースにした作品。古典の傑作が後世の作家に影響を与え、新たな作品が作られる・・・美しい営みじゃありませんか!
さてさて、当日は夕方17:30のスタート。4時間もあればさすがに読みきることができるだろうと思っていたのですが、蓋を開けてみると、これがどうも読み進めるのにだいぶ時間がかかってるんです。
おかしいな、なんでかな、と一瞬思いましたが、ページを眺めてみて、ああそうかとすぐに謎が解けました。
とにかくセリフが長いんですね笑。
普段、本読みはだいたい1ページ1分、2段組でも1ページ2分以内を目安に考えるのですが、それは会話が続いた場合のこと。長台詞の場合はどうしても改行が少なくなるので、1ページに入る文字の量が多くなります。
↑の写真、もう戯曲じゃないみたいですもんね・・・。文字がびっちり。測ってみたら、1ページ3分くらいかかっていました。
仕方がないのでいくつかの場面をカットして、なんとかギリギリ最後まで読むことができましたが、ちょっとヒヤヒヤ。さすが“こっそり”回です。普段進行を松山に任せて楽をしているので、修行みたいでした。
参加者の方々も、セリフを言うのにだいぶ苦労したんじゃないでしょうか。あまりに長いセリフを声に出していると、途中から自分が何を言ってるのかよく分からなくなってくる感じ、ありますよね?あれがずっと続く感じ・・・それこそ修行のようです。
でも、この感じが、いわゆる“サルトルの文体”なんじゃないでしょうか。
言葉に言葉を重ね、自分の思想をより正確に伝えようとするその意志や熱量。
強い信念と強い信念を激しくぶつけ合う時に、“議論”という形式を選ぶこと。
思想と言葉のスペシャリスト、さすがは哲学者と唸らせるものがあります。
しかし『蠅』はやはり戯曲。哲学書ではありません。
この戯曲でサルトルは、神の意思からも自由であり得る人間のあり方を模索していますが、サルトルはその過程を、オレストという一人の人間が対話の中で変化していく姿の中に表現しました。
俳優が観客の前に直接現れる演劇では、「何を語るか」ということももちろん重要ですが、「人がどうあるか」ということがより重要になるように思います。このことは、「実存主義」を思想とするサルトルが演劇という媒体を選んだことと無関係ではないだろう、そう私は感じました。
さて、会のことに話を戻しましょう。当日は、皆さん長台詞に苦労しながらも、和気あいあい、賑やかに本読みを進めていきました。今回のテキストの翻訳は、劇作家・加藤道夫。彼のなめらかな翻訳、生き生きとした口語の文体も、それを助けてくれた気がします。
会の後半にはセリフで遊ぶ余裕も出てきて、楽しい本読みができました。
今回は初参加の方も多く、学割で参加してくれた学生さんもいらっしゃいました。
出会った人の声を聞き、その人となりに思いを馳せ・・・そして作家の言葉と文体から、作家の人となりにも思いを馳せる・・・毎回思うことではありますが、本読みは本当に楽しい!
また次回も楽しみです。
以上、こっそりサルトル、レポートでした。翻訳の加藤道夫について、昔書いた文章があるので、下にリンク貼っておきます。好きな作家なので、皆さんにもっと知ってもらいたい〜。(大野)
『加藤治子さんの死を悼んで 〜加藤道夫と、新演劇研究会と〜』