たくさんのご来場ありがとうございました。ライブハウス・南青山MANDALAが醸し出す妖しい雰囲気の中で戯曲を聞く、そして読む体験、お楽しみいただけましたでしょうか?レポート第二弾です。
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公演が近くなると、ちょっとした空き時間にも台本を開くことが多くなるので、どうしても他の本を読む時間が少なくなります。本番を終えてようやく落ち着いた今日は、久しぶりにふらりと選んだ文庫を電車の中で読みました。
竹内敏晴『動くことば 動かすことば ―ドラマによる対話のレッスン』(ちくま学芸文庫)。
『夕鶴』『三人姉妹』『セチュアンの善人』など、数本の名作戯曲を取り上げながら、台詞の味わいを読みほぐしていく。特に「つう」や「イリーナ」など、女主人公の心持ちですね。
「はじめに」の項で、竹内はもうこんなことを言うんです。
戯曲のせりふを目で読むだけでは面白さは半分も感じられないでしょう。第一相手に向かって言いつのるからだの躍動が出てこない。
うんうん、そうなんだよ、竹内くん、きみなかなかわかっとるねー。
竹内は続けて、どんな風に戯曲を読み解いていくかのスタイルを提案します。
そこで、戯曲を読むには、当然、黙読して解釈を提出し合うなどというやり方は一掃する。まず集まった人たちで円く座る。ごちゃごちゃでもいい、役を希望によって割りふって-ということは、男とか女とか、年齢とかに全く関係なく、ちょっとやってみたいな、と思った役を申し出る、ということです。トガキを読む人もきめる。
うん?どこかで聞いたような・・・というか『本読み会』でいつもやっているような・・・竹内くん、『本読み会』お得意のスタイルをパクられちゃあ、困るよ!
いやいや、パクっているのはこっちでした。もちろん、『本読み会』は竹内さんに感化されて始まった会ではありませんが、戯曲を十全に味わい尽くそうと思ったら、どうしてもこのスタイルをくぐり抜けるようです。
僕と大野くんがまだ明治大学の学生だった頃、戯曲はいろいろ読んでみたいけど、家で一人で黙読してても続かないから、とりあえずヒマなやつで集まって声に出して読んでみるか・・・これが『本読み会』の設立経緯です。十数年を経てメンバーは大きく入れ替わりましたが、当時から会の進め方はまったく変わりません。竹内さんがおっしゃるとおりのやり方です。
さて、リーディング・ライブ。これは本読みをお客さんに聞いてもらうという、ちょっと普通の演劇とは違った公演。
①戯曲をひとりで黙読
↓
②戯曲をみんなで音読
↓
③戯曲は持ってるけど、登場人物のように動きながら読む
↓
④台詞を覚えて、戯曲を手放して動きながら喋る
もし演劇へ至る道筋が上記のようなものなら、リーディング・ライブは②と③の間くらいでしょうか。ただ、大野くんも書いていましたが、リーディング・ライブの本質は「俳優が台本を持って演じる」のをお客さんに観てもらうところにあります。
俳優が台本を読むのだから、当然「役を演じる」方へ向かっていく。でも、あくまで台本を持っていることで、「役ではない俳優その人」も消えることはない。おそらく、リーディングでは読み手が「俳優と役の間を行き来する」様子を見聞きしてもらうのではないでしょうか。私たち自身、このことに気づいたのは本番前日くらいです。そして、お客さんが見ていることによって「リーディング」でなく「リーディング・ライブ」になるんです。
そう思うと、音楽の演奏を楽しむのに似てますね。演奏者はあくまでその人本人だけど、曲という名の物語をお客さんの眼の前で作り上げていく様子を楽しむ。だから、ライブハウスでリーディングをするのは、とても相性のいいことだったのかもしれません。
実は今回、本番後にも『本読み会』を開きました。本番で読んだ戯曲を、今度はお客さんと一緒に読んでみたのです。誰だってそりゃ、人前で台詞なんか読むのは恥ずかしい。でも、おずおずと声に出して読み進めていくと、岸田國士のことばに導かれるように、少しずつ少しずつ、登場人物の声が聞こえてくる。読みが変わっていくのが手に取るようにわかるから不思議です。読んでくださった方も、なんだかよくわからない面白さは感じていただけたご様子でした。
帰り際、何名かの方が「次の『本読み会』に、参加してみてもいいですか?」と言ってくださったのは嬉しかったですね。そしてそのあと、「上手く読めなくてもいいんですか?」と聞いてくれたのはもっと嬉しかった。
上手くなんか読まなくてもいいんです、上手いとか下手とか、分かってるとか分かってないとか、そういうことから解放されると戯曲は鼓動を打ち始めるんです。インク文字の中に込められた登場人物の声が立ち上がってくる。それは、読み手が身体から息を、声を外へ解き放ってやることと同じなんです。
『本読み会』の掲げる、「戯曲文化を広める」という使命は壮大ですが、まあ、もうちょっと、こんな風に戯曲を声に出す楽しみが広まってもいいかなとは思うんです。テレビと同じくらいとは言わないけど・・・うーん、たまに野球を見に行くとか、ガラスを吹いてコップを作る体験をしてみるとか、それくらいの頻度になるといいな。野球は無理でも、ガラス吹き体験には勝ちたいですね。
最後に、戯曲研究の清末さん、共演の平佐喜子さん、西村俊彦くん、照明、映像、舞台監督を一手に引き受けてくれた平さん、そして南青山MANDALAの皆様。今回の公演に力を貸してくださった全ての方へ、この場でお礼申し上げます。ありがとうございました。
(松山)