「わたしたちは何をやっているんだ・・・?」
これは反語でなく、純粋な疑問。お試しでやってみたオンライン『本読み会』ですが、これまでと全く異なる『本読み会』に、疑問、不安、戸惑い、そして新たな可能性を見出す体験となりました。
【悪魔のささやき】
新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、『本読み会』でもレギュラー会が延期となりました。劇団、劇場はもちろんのこと、全国の戯曲読書会もどこもそんな状況。密閉、密集、密接の「三密」をことごとく満たす戯曲の読書会ですから、いまはじっと我慢のときなのです。しかし、そんなときチラホラ聞こえてくるのが「オンライン本読み」という悪魔の甘いささやき。「あやしそうだけど、ちょっとやってみるか・・・?」と、おそるおそる腰をあげました。
【オンライン『本読み会』の準備】
テレワークが増えて、一気にオンライン会議ツールが普及している感じがします。戯曲をお互いに読み合うならばこの手の会議ツールがよかろうと「Zoomミーティング」を使うことにしました。かくいう私も触るのは初めて。「どうせ音が途切れるんじゃないのか?」「むなしいだけなんじゃないのか?」との不安が頭をよぎります。
でも、戯曲の調達はどうする?いまや図書館もひょいひょい行けないし、古本屋も閉まってる。本屋にはコロナとか関係なく戯曲が置いてないし、開催まで日もないし・・ということで、青空文庫からチェーホフ『桜の園』を。いつもお世話になっている青空文庫ですが、こんなときは本当に頭が下がります。青空文庫には岸田國士の戯曲も数多く収録されていますね。
ちなみに、新国立劇場が期間限定で「巣ごもりシアター 〜おうちで戯曲〜」という企画を始めました。新国立劇場に書き下ろされた戯曲を無料公開するという太っ腹企画です。オンライン『本読み会』には、こんな新しい戯曲の出会いもあるんです。
それでも怖いから、事前に主宰の大野と松山で本読みをしてみました。二人で読める戯曲を読み合わせしてみる。夜だから二人ともパソコンの前でお酒を飲みながら読んでいる。一応、台詞はやり取りできる。「面白いかどうかはよくわかんないけど、とりあえずつながることは分かったからやってみるか・・・」と、不安を抱えてはいましたが、酔っていたので「ま、なんとかなるか」とぐっすり寝てしまいました。
【そして当日】
実際、始まってしまえばスムーズに台詞のやり取りはできるのです。大変なのは参加者がZoomにアクセスして、映像と音声がつながることを確認するところ。つまり本編が始まる前の「開場時間」のところでした。本読みは21:30から開始でしたが、21:00から開場して、やれミュートを切るだの、映像がでないだの、画面がひっくり返ってるだの・・・今後こういうスタイルが定着すれば解決するのでしょうが、まさにオンライン本読み黎明期という感じです。
で、普及の名作『桜の園』を読んでみる。今回はお試しなので第4幕だけ。青空文庫はページ番号が振っていないから、「ト書きで〇〇って書いてあるところまでで一回止めて・・・」と、少し伝え方が難しい。でも、読めば読める。ロパーヒンとワーリャはやっぱり結ばれないし、ラネーフスカヤも最後にはちゃんと家を去っていく。終幕には天から響いたような物音もする。しかし、なんでしょう、このそこはかとなく漂う違和感は。
【声だけを頼りに戯曲を読む】
本当はパソコンの前にひとり寂しく座って読んでいるだけですし、そもそも戯曲はフィクションですから、オンライン本読みは二重の虚構の上に成立しています。だからこそ、「これ、本当にちゃんと伝わってるの?」という不安にかられるのかもしれません。面白いもので、対面型の芝居では「伝わっているのでは」という前提で演技をしますが、それがうまくいっていないことがよく起きます。逆に、オンラインでは「伝わっていないのでは」という前提で台詞を言う現象が生まれました。
それから、「相手の姿がどう見えているか?」も大事なところでした。これはパソコンかスマホかでも大きく環境が異なるところ。Zoomミーティングだと参加している全員の顔が一覧で表示されるのですが、逆にいま誰が読んでいるのかが分かりにくい。顔は見えるけど距離や位置がつかめない、といった状況が生まれました。このあたりは、読んでいる人以外はミュートにしたりモニターオフにしたりといった工夫が必要になってきそうです。
参加者の言葉を借りれば「声だけを頼りに戯曲を読んでいる」感じ。逆に言えば、戯曲の本読みは声だけで成立しているのではなかったことが浮き彫りになりました。
【これからの本読み】
まだお試しでやっただけですが、今後もオンライン本読みの取り組みは増えていくことでしょう。この新しいスタイルを通じて、わたしたちが今までやってきた本読みは何だったのかが改めて問い直される気がします。「相手に伝わる」や「台詞がかかる」といった曖昧な言葉は、一体何を意味していたのか?また、オンラインに向く戯曲、向かない戯曲、読む際に必要な技術や設定など、新しい道筋も見えてきました。実際、かしこまらず、お酒でも飲みながら気楽に本読みをするには実にいいツールです。
おそらく、対面型の本読みをオンラインで「再現」するのではないのです。まったく新しい本読みの形を今から創造していくことになるのではないでしょうか。それは、コロナが収束しても、もう元どおりの日常は戻ってこないこととどこか似ている気がします。
というわけで、戯曲と一緒にステイホーム!(松山)