お試し!オンライン『本読み会』を経て、ついに本格的に始動しました。その名も『本読み会』online;。やはり一度やってみると、オンライン本読みのいろんな問題や対策、そして可能性が見えてくるもの。今回は「オンラインでいかに戯曲の世界に入っていけるか?」をテーマに、岸田國士の『動員挿話』を読んでみました。初出は1927年。岸田國士もまさかオンラインで読まれることになるとは思うまいて・・・
【オンライン本読みの極意 その壱】
登場人物は少数にするべし!
『動員挿話』を選んだのは、ただ青空文庫に載っていたというだけの理由ではありません。オンラインだと相手の顔は見えますが、参加者全員の顔が「見えすぎて」しまいます。しかも距離感がつかめないので大人数のシーンだと誰が誰に話しているのかがよくわからない。もちろん戯曲ですから読めばわかるのですが、読み手の「実感」が薄れがちなのです。「ああ、この人と話してるな」と実感できる人数が理想です。基本は2人。多くなっても4人くらいでしょうか。6人とか8人になると、逆にひとりっきりで読んでいるような気になってきます。
【オンライン本読みの極意 その弐】
戯曲は短編〜中編にするべし!
わたし、仕事で大学の教員をやっております。大学もコロナで閉まっていますから、授業はいま話題のオンライン。ところがこれ、やる方も受ける方もものすごく疲れるらしいのです。「らしい」というか、はっきり言って疲れます。同じ90分授業でもオンラインだとぐったり。どうも違う集中力を使っているようなのです。
通常の『本読み会』では4時間かけて1本の戯曲を読み通しますが、オンラインで4時間は長すぎます。2時間に区切って、読むのは1時間程度。残りの1時間は戯曲についてあれこれ語り合うサロンの時間としました。いわば「読み手パート」と「サロンパート」に分けて進行するわけです。
これは黎明期だからなのかもしれません。もっともっと私たちがオンライン本読みに慣れてくれば、3時間でも4時間でも続けられるようになるでしょうか。
【オンライン本読みの奥義】
対面型本読みの「再現」ではなく、これはこれで別物として楽しむべし!
フェイス・トゥ・フェイスで本読みができないから、代替手段としてオンライン本読みを・・・というのはたしかにその通りなのですが、実際にやってみると、これはまったくの別物だということに気づきます。本読みの充実度としてはもちろん対面型本読みには及ばない。しかし、むしろ本読みを通じての交流や雑談に関しては、オンラインの方が気楽にやれるのではないかと感じる点も多々ありました。
今回の『本読み会』online;では、首都圏の方はもちろん、北海道や海外からも参加してくださった方がいらっしゃいました。これはもちろん対面型ではありえない情景で、「そうまでして戯曲を読みたいのか!?」との思いが募るもの。時間と場所を飛び越えて戯曲に集う感じはオンラインならではの味わいでした。
おそらく、コロナが収束したあとも『本読み会』online;は続きます。通常開催とは別の形で、「ちょっと短編読んで語りたいぞ」といった形で。これが新しい日常というやつなのでしょうか・・・。
動員挿話は基本的に二人の対話で進む戯曲ですので、読み手以外はマイク・カメラOFFにすると、まるでテレビドラマのようなカット割りになって表示されます。出番が終わったらマイク・カメラOFF。新たに登場するときはON。つまり、スクリーンを舞台に見立て、自らを役者に見立て、舞台に出るときはカメラ・マイクON。退場するときはOFFという感覚です。Zoomは背景も変えられますので、これに和風の背景でも入れればさらに気分が出るかも。実際、グリーンバックを準備して参加してくれた強者もいました。
オンライン本読みはどこまでいってもバーチャル空間ですから、まずバーチャルであることを受け止める。これは対面型本読みではないんだ、と。そこから戯曲選びや会議ツールの設定などを駆使して本読みに適した「錯覚」を起こしていく。自分で作った錯覚には、だまされたと思ってだまされてみる。これがオンライン本読みの作法なのかもしれません。終わってみれば「思ったより戯曲の世界に入り込めた」との感想も聞こえてきました。
私は「戯曲の世界に入る」ということがどういうことなのか、あらためて不思議に思えてきました。対面型であろうとオンラインであろうと、それは錯覚には違いありません。しかし、本読みで起こる錯覚は、私たちの体感や実感を積み重ねた先にある錯覚なのです。そして、オンラインの場合にはより意識的に錯覚を作っていく必要があります。だからこそ、オンライン本読みは結果として「演劇」に近づいていくのかもしれません。
ぼちぼち緊急事態宣言も解除されるとの話ですが・・・さて、ポスト・コロナの新たな本読み時代が到来するのでしょうか。今回もご参加くださったみなさん、どうもありがとうございました。
(松山)