巨人の話。
「建築家とアッシリアの皇帝」の稽古場には演出家がいません。
知らない方のために補足しますと、演出家とは映画で言えば監督にあたる人で、お芝居をどう見せていくのかを考える人だと言えるでしょうか。
映画には必ず監督がいるように、 普通演劇の現場には必ず演出家がいるものなのですが、今回の芝居では敢えて演出家 を決めず、俳優二人と関わっているスタッフ陣の共同作業でお芝居を作ってまいりました。
演出家を決めないことには、 やはり意思決定の遅れなどのデメリットも多くあるのですが、それでも何故今回演出家を決めなかったのかと言えば、それはイメージが多様になるのではないかという計算があったからです。
「建築家とアッシリアの皇帝」は、幻想の中で二人の男がごっこ遊びを繰り返すというお芝居なんですが、 その遊びのイメージを演出家一人のイメージで作るより、俳優二人はもとより、照明さん、音響さん、美術さんなど、たくさんの人間が一緒に遊びながら作っていくほうが、絶対に面白いものが出てくるだろうと考えたのです。言ってみれば、関わっている全員が演出家であるとも言えるわけですね。
この作戦は、結果的には大当たりだったと思っています。
さてさて、そういう訳で話はもとに戻るのですが、「建築家とアッシリアの皇帝」の稽古場には演出家がいません。
でもその代わり、稽古場にはいつも巨人がいるのです。
その正体は身長196cmの演出補、松本君。
彼は今回出演する俳優二人の大学時代の後輩なんですが、大きな身体とその強面に似合わず非常に繊細な心を持った男でして、「哀しみの巨人」と呼ばれたりしています。
そんな彼が今回の芝居のほぼ全ての稽古に参加し、俳優達を客観的に見て、聞いて、意見し、さらには大きな身体を折り曲げながら小道具の製作まで行ったりしてまして・・・その存在感は巨人の名に相応しいものと言えるでしょう。
哀しみの巨人をはじめとする何人もの人間の視線とイメージの中で、俳優は遊び続けています。
「建築家とアッシリアの皇帝」、初日まであと8日です。