先日、新国立劇場で話題の舞台『タージマハルの衛兵』を観てきました。以下、感想です。
※ネタバレあるので、これから観劇する人はお気を付けください。
※上演は23日まで。新国立劇場なので、当日券ありますよ。オススメです。
新国立劇場2019/2020シーズン
シリーズ「ことぜん」Vol.3『タージマハルの衛兵』
作:ラジヴ・ジョセフ
翻訳:小田島創志
演出:小川絵梨子
出演:成河(フマーユーン)、亀田佳明(バーブル)
公式サイト:
https://www.nntt.jac.go.jp/play/guards_at_the_taj/
・とにかく俳優が素晴らしい!
この後いろいろ書いていますが、もし書くことを一つに絞るとしたら、これに尽きます。とにかく二人の俳優がとても良かった。生きたセリフの応酬に丁寧なやりとり。二人芝居の醍醐味を存分に味わうことができました。
・でも、芝居のメッセージとしては、少し物足りなさも。
観劇直後に感じたのは、希望のない話だなー、ということでした。悲しいお話、敗北感が強いと言いますか。
今回のお芝居は、新国立劇場“ことぜん(=個と全)”シリーズの第三弾とのことで、このお芝居も個人的なものと全体的なものとの関係を描いたお芝居として選ばれたと理解しています。たしかに、“全”の恐ろしさについては十分感じられましたが、個人的にはその上で何かもう一つ先を見せて欲しかったと感じました。
『タージマハルの衛兵』では、“個”の価値を訴えて破滅を迎えるバーブルの生き方と、権力への恐怖から“全”に加担してしまうフマーユーンの生き方の、二つの価値観が提示されます。
私は上演を観て、バーブルの示す美しい価値観に共鳴しましたし、バーブルの破滅を悲しくも思いました。多くのお客さんがそうだったんじゃないかと思います。ですが、お客さんの多くが寧ろフマーユーンに共鳴してしまうような、フマーユーンの強さの表現がもっとあっても良かったんじゃないかと感じました。
現実的に考えてみれば、「皇帝は死ね!」と叫び続けるバーブルは、やはり常軌を逸していたと言えますし、身を守るために必要な行動を取るフマーユーンの判断は、非常に知的で理にかなったものだと思います。正しい判断をして、しっかり生き延びたフマーユーンは立派なものだと思うのですが、とにかくバーブルが魅力的だったせいもあって、フマーユーンの価値観、その強さがあまり感じられなかったように思いました。
これはもう私の個人的な趣味の問題ですが、“犠牲をも厭わず、強くたくましく生きるフマーユーンが、しかしふとバーブルを思い出す時、自分の下した判断の醜悪さに打ちのめされる”・・・私はそういうのが好きなんです笑。そしてそれを観た観客が「フマーユーンは私自身だ」と、自分自身を苦く振り返る。チクリと胸が痛む。これは非常に現代的で、クリティカルな表現です。
バーブルに共鳴して破滅を悲しむだけでなく、フマーユーンにもう少し感情移入して罪悪感を感じられていたら、より満足できていただろうと思いました。
・戯曲を読んでみて
今回は劇場ロビーで、『タージマハルの衛兵』が掲載された雑誌『悲劇喜劇』を販売してくれていたので、早速購入して読んでみました。観た芝居の戯曲をすぐ読めるというのはやっぱり嬉しいですね。
さて、当然のことではありますが、戯曲を読んでみると芝居の印象が変わります。特に、上述したような視点を持って読んだせいでしょうか、フマーユーンのキャラクターに関しては、印象が大きく変わりました。演出として意図的に改変していると思われる箇所も多く、どのような演出意図だったのか気になります。
例えば・・・
第四場
戯曲では、フマーユーンはバーブルの手を切った後、傷口を焼いてふさいでいますが、上演では、それをしていなかったように思います。この芝居では、例えば第二場のバーブルの台詞などで、
「違うんだよ!俺は手を切った。お前が出血死させないように傷口をくっつけた。俺がやった、お前が治した。この違いがどうして分からない?どうしてこの違いが見えないんだよ?」
などと、手を切ることと焼くことの意味について繰り返し言及しているので、これはとても大きな改変です。上演を観た際は、フマーユーンは殺意を持ってやってきたんだと思っていたのですが・・・。
演出意図が気になるところです。
第五場
ト書きをみてびっくり!第四場の「10年後」なんですね。私、これに気づいていませんでした。皇帝の名前がなんか違うなーとは思ったんですが・・・。
第五場が10年後だとなると、フマーユーンの過ごしたこの10年がどんなものだったのか、そこに興味が向かいます。後悔にまみれた荒んだ10年だったのか、それとも・・・。
10年経ったことには気づいていませんでしたが、フマーユーンの声の出し方が力強くなっていたことについては、「あれっ?」と思っていたんです。フマーユーンにたくましくあって欲しい私としては、あの表現は良かったなと思いました。ですがその後、鳥の声にフマーユーンが驚いた(ビクついた?)のは、逆にちょっと残念。実際、このシーンの鳥の声に対する戯曲のト書きは「見上げる」のみだったので、こちらも演出小川さんの意図があるのでしょう。狙いを聞いてみたいと感じました。
感想は以上です。もう一度上演を観たり、繰り返し戯曲を読んでみたら、また感じ方も変わるかもしれませんが・・・。いろいろ書いてみて、私は世のあり方に対して闘いを挑む作家、戯曲が好きなんだなと感じました。
とにかく俳優さん方が良くて、楽しむことができました!
上演は23日まで。新国立劇場なので、当日券ありますよ。オススメです。