あけましておめでとうございます!『本読み会』の大野です。2004年に活動を開始した『本読み会』、おかげさまで20年目の年を無事乗り越えまして、とうとう21年目に入りました。20年前とは演劇界の状況も、主宰二人の生活も、だいぶ変化しましたが、とりあえずは30年を目指して、また一冊一冊、戯曲を手に取っていければと考えています。本年もどうぞよろしくお願いいたします!
と、年始のご挨拶をしたところで、ちょっと流れに逆らうようですが、昨年末に開催されました第98回&忘本会のレポートを以下に掲載させていただきます。実はレポートを執筆した松山からは昨年末に原稿を受け取っていたのですが、アップする時間が作れず、年を越してしまいました・・・。
年を越してしまった場合は、年始バージョンに文章を修正するよう言われていたのですが、せっかくの原稿ですので、そのままアップしようと思います。皆さんちょっと目を瞑って、2024年末の気分を思い出していただいて、そのモードのままで読んでください。。
それでは、どうぞ。(大野)
第98回『本読み会/ワイルダー』&『忘本会!2024』レポート

年の瀬が迫ってまいりました。今年最後の『本読み会』は、いつもと雰囲気を変えて開催されました。幡ヶ谷にある7cafeという雰囲気のいいカフェをお借りして、飲んだり食べたりしながら戯曲を読むという試みです。このお店、あちこちにたくさんの本が置いてあるばかりでなく、文庫本のページをデザインした壁面などもありました。まさに本を読むにはぴったりの場所で、ホットワインの良く似合う素敵な会場です。
クリスマスということで、戯曲はソーントン・ワイルダー『長いクリスマス・ディナー』を選びました。1931年に書かれたもので、上演すれば1時間弱くらいの一幕劇です。初演はイェール大学の劇場で、他の短編と一緒に上演されたのが初演だそうです。
しかし、劇の中身は決して短くありません。劇中ではクリスマス・ディナーが90回も繰り返されたことになっていて、アメリカのとある家族の歴史が延々と描かれています。母から子へ、子がまた親になって、孫が大きくなって…と、3世代に渡る時間の中で、変わるもの、変わらないものが時間の中で同居しています。有名な『わが町』を読んだことのある方は、きっと同じようなワイルダーのまなざしを感じられるはず。
舞台はべヤード家の食卓。上手と下手には戸口があって、それぞれ「生」と「死」を少々しています。12月25日に家族で礼拝へ出かけたあと、七面鳥を切り分けながらクリスマス・ディナーを楽しむ様子が90年分繰り返されます。
といっても、場面が90個あるわけではありません。「生」や「死」の戸口から人が出入りしたり、登場人物が白髪のかつらを被ったり、召使の名前が変わっていたり、ちょっとしたひと言で年月の経過が示されたり、演劇ならではの約束事を巧みに使いながら時間を描いていきます。
西部開拓時代の話がされたかと思えば、その子供たちは工場を建設してアメリカを豊かにし、そのまた子供は第一次世界大戦へ出征して戦死したり、ときにどこの誰だか思い出せない親戚が同居を始めたり…。取り立ててドラマチックな事件が起こるわけではないのですが、登場人物たちはそれぞれの生き方で時間を感じています。この戯曲の本当の主人公は、人間ではなく「時間」なのかもしれません。
ちなみに、オーソン・ウェルズ監督の『市民ケーン』に出てくる食卓のシーンをご存じでしょうか?仲睦まじかった若い夫婦が小さなテーブルを囲んでいるのですが、年月が経つにつれてテーブルが大きくなり、二人の距離は離れて関係が冷え切ってしまう、という有名な場面は、実は『長いクリスマス・ディナー』から着想を得たとのこと。
声に出して読みながら、むしろ戯曲に書かれていない場面について話題が盛り上がりました。この間に、こんなことがあったに違いない。この人物は実は○○だったのでは?などなど。絶妙な「すき間」のある戯曲は、読み手の勝手な想像力を楽しく刺激してくれます。
それから、アメリカの風習と日本のそれを比べながら話したのも面白かったですね。アメリカのクリスマス・ディナーは、日本でいうところのお正月みたいなものではないか。たまに会う親戚と毎年同じような話をするのに似ているのではないか、などなど。この時期に読んだからこそ、余計にそう思ったのかもしれませんね。
読み終わった後は、『忘本会』に突入です。たまには本のことを忘れて楽しくお酒を飲もう、といっても、結局本の話をするのですが。これも毎年同じことを言っていますね…。
主宰の大野、松山ともに仕事に忙殺されており、なかなかペースの上がらない『本読み会』ですが、来年もどうぞゆっくりお付き合いください。みなさま、よいお年を。(松山)