
2020年もまもなく暮れです。今年の1月あたりはまだ平穏でしたが、2月3月あたりからは一気にコロナ禍で大騒ぎとなり、『本読み会』も大きな変化を余儀なくされた1年でした。いつのまにか年末恒例行事となった『忘本会』(1年中戯曲ばかり読んでいるから、年末くらいは本を忘れて飲もう、といいつつやはり戯曲を読む飲み会)も、今年はオンラインでの開催となりました。いわゆるzoom飲みというやつです。さすがに飲むだけじゃ間が持たないだろう、ということで、やっぱり戯曲を読むのですが・・・
何を読もうか考えていたところ、今回は大野・松山セレクトではない戯曲はどうかとのアイデアが飛び出しました。参加者一押しの戯曲、珠玉のシーンをかきあつめて酒の肴に。今年は密集・密接・密閉を避け続けた一年だから、せめて戯曲の中では密に!ということで、名付けて“密な”『本読み会』の開催です。
ラインナップは
・シェイクスピア『マクベス』
・ジャン・ジュネ『女中たち』
・安部公房『友達』
・三島由紀夫『三原色』
などなど。
ほかにも、チェーホフ『かもめ』、シェイクスピア『夏の夜の夢』、アーサー・ミラー『橋からの眺め』なんかもリクエストがありました。やはり全国の戯曲ファンは、“密な”シーンに飢えている模様・・・。ウイスキー、ビール、チューハイ、お茶、おでんなどがzoomの画面に見え隠れしながら、戯曲を読んではああだこうだと戯曲談義に花の咲く、なんとも優雅な年末となりました。
しかし、ひとことで“密な”と言っても、その密っぷりにはそれぞれ個性が出るものです。
シェイクスピア『マクベス』の密シーンといえば、ご存知ダンカン殺害のくだり。マクベスとマクベス夫人は、謀反を犯した罪悪感に叫び出したい欲求にかられながらも、じっと息を潜めて夜明けを待たなければならない。これは状況に閉じ込められた“密”ですね。
ジュネ『女中たち』は、奥様に隠れてごっこ遊びをする女中たちが、次第に現実と遊戯の境を失っていく戯曲。奥様とのやり取りを通じて、“現実のための遊戯”と“遊戯のための現実”が交錯していきます。これは室内で自分たちの始めたルールに閉じ込められる“密”ですね。
安部公房『友達』は、男ひとり暮らしの狭間に9人家族がドカドカと上がり込んで、男の私空間を占拠してしまうシーン。これは厚生労働省もレッドカードを出す“密”っぷりです。これは物理的な“密”で攻めてきた。
三島由紀夫『三原色』は、2人の美男と1人の美女が三角関係、ではなく、独特の価値観での循環関係を築く“三密”戯曲。人間関係の“密”というか、作家の強烈な美意識に読者が閉じ込められるような“密”です。
これまで私たちが魅せられてきた戯曲は、なんらかの形で密なのですね。そんな視点で戯曲を読んだことはありませんでしたが、今年置かれた状況だったからこそ戯曲の、そして演劇の真髄を垣間見ることができたのかもしれません。戯曲の設定、物語の進行、登場人物同士の関係、または作家と読者の関係も含めて、優れた戯曲は“密”です。密はドラマだ!とマスクをしながら声高に叫びたい。そして、清水寺で今年の漢字に「戯」と書き殴って、今年を締め括りたいと思います。
コロナ禍の中、本年も『本読み会』をご愛顧いただきありがとうございました。来年もどうぞよろしく!
(松山)