初夏というにはあまりにも暑い日。抜けるような青空の下、『本読み会/ノエル・カワード』は始まりました。しかし、戯曲はまさにイギリスの色。年中灰色の雲に覆われたイギリスの、まさにザ・ブリティッシュという感じの戯曲です。ノエル・カワード最大のヒット作『陽気な幽霊』。
妻を亡くした小説家のチャールズは、二度目の妻ルースと幸せに暮らしています。ある日、小説の題材にと面白半分で呼んだインチキ霊媒師マダム・アーカティーが、チャールズの先妻エルビラの魂をどういうわけか呼び戻してしまい、家は二人の妻に挟まれててんやわんやの大騒ぎ・・・という、実際どうってことのない筋立てなのです。これがどうしてイギリスを代表するコメディかといいますと・・・
イギリスの演劇は、物語の筋立てよりも台詞そのものの機知や機転を非常に重んずる傾向があるのです。実際の生活でそんな気の利いたことはポンポン言えないけれど、練りに練った戯曲の台詞なら、お洒落な台詞で彩った夫婦生活も作れます。つまり観客の抱く「こんなうまいこと、あんなひどいこと言えたら・・・」という気持ちを、カワードが代弁してくれるんですね。
また、カワードは劇場で取り上げた問題を、家に帰ってまで考えてくれというような野暮な願いは抱きませんでした。幕が降りたらおしまい。そのため、政治性がないとか批評性に欠けるなどと言われるカワードですが・・・。
カワードがこの戯曲を書いたのは、第二次世界大戦の真っただ中だったことを忘れてはなりません。「戦争は憎しみの舞台。芝居という魅力の舞台に立つ者には最も不向きなものだ」と発言したカワードはその言葉どおり、あくまで劇場の中で完結する洗練した喜劇を生み出し続けたのです。
『本読み会』で古今東西さまざまな劇作家を読んでいると、それぞれの作家がそれぞれの手法で「戦って」いる姿を目の当たりにします。もうじき節目の50回をむかえる『本読み会』。軟弱な我々ですが、せめて作家の戦いっぷりは最後まで見届けようと思います。(松山)