今年はシェイクスピア生誕450年の記念の年。1564年に生まれて1616年に没したシェイクスピア。「人殺し、いろいろ(1564〜1616)」の語呂で覚えて下さい。シェイクスピアの戯曲ではありとあらゆる人殺しが出てきます。間違えて「皆殺し、いろいろ」と覚えると、37564年になってしまうのでご注意を。ただ、今回は誰も死なない喜劇です。途中いろいろあるけれど、最後はみんな結婚して大団円というのが喜劇のお決まり。シェイクスピア戯曲屈指の完成度を誇る『お気に召すまま』。お正月はパーッといきましょう。もう2月だけど。
私はロンドンに住んでいた頃、シェイクスピア・グローブ座でこの『お気に召すまま』を観る幸運に恵まれました。5ポンドの平土間に立ち見で、3時間。それがあまりにも面白かったので、在英中に結局6回も観に行きました。同じ劇を6回も観たのはもちろん初めて。一昨年またイギリスへ行ったときにはその上演DVDが出ていたのでさっそく買いこみ、原文と照らし合わせながら未だにくり返し観ています。
宮廷を追放された従姉妹、ロザリンドとシーリアは、道化を連れてアーデンの森へ旅立ちます。変装して男に姿を変えたロザリンドは、森の中でこれまた追放されたオーランドーと出くわし、自らの姿を偽りながらの燃える恋路。森の中では道化も恋をし、男装したロザリンドに恋する田舎娘が現れ、その娘に恋する純朴な羊飼いも、そしてシーリアに突如好意を抱くオーランドーの兄も登場して、人間関係は入り組んだ森そのものの複雑さで観客を混乱に陥れます。こんなに筋をぐちゃぐちゃにして大丈夫か、シェイクスピア。
喜劇は最後にみんな結婚するというお約束事はあるので、幕が開いた時から観客は結末を知っています。けれど、シェイクスピアの喜劇を観る者はいつのまにかそんな約束事を忘れて、森の中で劇の終盤までハラハラさせられて、エピローグで我に帰って「そうだった、喜劇だった」と舞い戻ってくるのです。ツアー・コンダクターのシェイクスピアが組んだツアーに乗って、アテンダントのロザリンドとともに3時間あっというまの旅をするのです。
シェイクスピアの戯曲は言葉の嵐。読む方も大変です。今回参加された方は休む間もなくぶっつづけで読み通し、本当にお疲れさまでした。今後もお気に召すまま、好きな戯曲を読みふけりましょう。
(松山)