パリ市立劇場の『犀』を観てきたよ!

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先日の第56回『本読み会』で読んだばかりのイヨネスコ『犀』が、パリ市立劇場によって上演されていたので、観に行ってきました。簡単にですが、以下に感想を載せておきます。

ちなみに、こちらが第56回『本読み会・イヨネスコ』のレポートとイベントレポートです。
まだ読んでないという方は、併せて読んでいただければ幸いです。
第56回『本読み会・イヨネスコ』レポート
イベントレポート(第56回『本読み会・イヨネスコ』)

 

 

パリ市立劇場『犀』
2015年11月21日(土)〜23日(月・祝)
@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
作:ウジェーヌ・イヨネスコ
演出:エマニュエル・ドゥマルシー=モタ
観劇した回:22日(日)15時〜

 

非常に良い舞台だった。イヨネスコ『犀』は非常に構造的な戯曲だが、演出家は社会の戯画としての戯曲の構造をしっかりと受け取り、丁寧に劇化していた。俳優陣も非常に力のあるカンパニーで、戯曲の魅力を存分に引き出していたと思う。演出について、特に感心した点について二点挙げたい。

まずは、物語の舞台設定だ。イヨネスコは『犀』という物語が進行する場を、何段階かに分けて変遷させている。物語はまず、街中の広場というパブリック(公的)な場から始まり、その後、主人公ベランジェの勤めるオフィスというセミ・パブリックな場を経て、友人ジャンの居室、ベランジェの居室とプライベート(私的)な場へと移行していく。

今回の公演でも、そのことはしっかりと意識して演出されていた。それぞれの場の舞台構造は、場の推移とともに徐々に解体されていくが、その移行は継ぎ目なく行われていく。その中心にいるのは必ず主人公ベランジェであり、彼の視点で物語が貫かれていることがわかる。基本的に戯曲に忠実な演出だったが、最終シーンに向けては、最も私的な領域であるベランジェの内的世界へ入っていくかのような演出が施されており、演出家の意図が感じられた。

二点目は、『犀』という戯曲の解釈についてだ。『犀』という作品に触れると、つい「犀」とは何か、何を象徴しているのか、という視点から作品を眺めてしまいがちだが、私は、この作品の主眼は別の場所にあると考えている。この作品が描いているのは、「犀」に象徴される(と感じられる)いわゆる全体主義的なイデオロギーそのものではなく、ある事件に晒された際の社会や個人の反応、そして、社会が変質していく過程ではないだろうか。

第一場の広場のシーン。パリ市立劇場による公演ということもあり、犀が初めて現れるシーンでは、真っ先にテロが連想された。だが、この戯曲はそうした異変に対する恐怖を表現しながらも、強いて日常に立ち返ろうとする人々や、そうした人々を批判的にアジテートしようとするジャン、全く異変を意識していないベランジェなど、人々の種々多様な反応を喜劇的に主張している。二度目の犀の登場では、猫の死という暴力的な事態によって人々の反応は一段階過敏になるが、肩書きを持った論理学者の登場により、犀の角の本数という、本質とはズレた論争に終始する。ベランジェとジャンに至っては、無用な争いで仲違いまでしてしまう。
こうした人々の滑稽さは、全てイヨネスコが戯曲の構造に込めていることだが、今回の上演では、それを非常に丁寧に、そして強調しながら立体化していた。私はこのシーンを観ていて、先のパリ市街でのテロに対する、SNS上での種々多様な反応を思い出した。

第二場オフィスのシーンでは、メディアでの報道に対する人々の反応や、個人的な感情がいかに社会的論争に影響しているかということを、その後の私的な領域では、友人や恋人の喪失の過程を通して、いかに個人の中に新しい価値観が暴力的に侵入してくるかを描いている。最終的にベランジェの絶望的な状況を描くことで、「社会はこのように変質していくのではないか」と、イヨネスコは警告を発している。演出は当日配られたパンフレットの中で、現在の世界的な極右イデオロギーの台頭について言及しているが、そうした彼の危機感は、舞台上にしっかりと表現されていた。喜劇的な展開の多い作品で笑えるシーンも多かったが、そのあまりにリアルな恐怖に、私は終始引きつった笑いを浮かべての観劇となった。

 

以上、簡単に感想を書きました。読んでいただいてありがとうございました。
ちなみにこの記事を書いているのは、観劇日から日時が変わった11月23日。この記事をすぐに読んだ方は、まだ本日の千秋楽に間に合いますよ。S席6000円という値段、私は安く感じました。よかったら観に行ってみてはいかがでしょうか。
それでは。

(大野遙)

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