ホテルで通販の番組を観ながら書いています。日本でもジャパネットチャンネルばかり観ていたので、あまり遠くに来たという実感がありません。今は、昔のビリーズブートキャンプみたいな商品を流しています。やっぱり広い家に住んでることを前提にしてるせいか、動きがダイナミック。団地でそれは無理だろう、というようなジャンプを次々と繰り出してきます。
さて、イギリス観劇旅行記②。今回観たのハロルド・ピンター作『昔の日々』(@ハロルド・ピンター劇場)です。かつて「コメディ劇場」と名乗っていた劇場ですが、2011年に改名して「ハロルド・ピンター劇場」となりました。
ロンドンには俳優の名前がついた劇場がたくさんあります。ギャリック劇場、ギールグッド劇場、オリヴィエ劇場などなど、いずれも名優の冠にあやかっているのですが、ハロルド・ピンターのように劇作家の名前をつけるのは珍しい。ピンターがこの国でいかに特別な位置を占めているのか示す一端でしょう。
『昔の日々』は1971年に初演された中編戯曲で、登場人物3人の対話劇。3人のうち2人の対話と、誰か1人の独白から劇が成っていて、3人の対話というのがほとんどありません。
3人はそれぞれに関係を持ち、一様に過去について語るのですが、よく聞いていると、その記憶が3人の中で微妙に食い違っています。この過去についての食い違いが徐々に現在の人間関係にまで変化をもたらしていくところに、ピンターの手腕が光る戯曲です。
そして、この戯曲の主役は言葉ではなく、その間にある「間」あるいは「静寂」。喋っている2人ではなく、黙っている1人が実質上その場を支配しているのです。そこのところを非常に精密に演出している舞台でした。
イギリスの劇場へ来るといつも感じることを、また感じました。
僕は妻に「意味わかんない劇なんだけど、人助けと思ってどうか付き合ってくれ」と懇願してこの観劇を勝ち取りました。日本では、ピンターの劇を一緒に観に行きましょうとはなかなか誘えません。ところがこの国の劇場では、老夫婦も若い友人同士も芝居通の一匹狼も一同に会してピンターの戯曲に聞き耳を立てます。こういう景色は今更ながら、羨ましいですね。