久しぶりに、文句なく、ぶっちぎりの才能をもった奴が現れた。令和初めの『本読み会』は、マーティン・マクドナーに挑戦です。新時代の幕開けなんだから、いま、現在進行形で最も優れた戯曲を書く作家を読もうとマクドナーに白羽の矢を立てました。やはりその決断は間違っていなかった・・・。
いつのころからか「マーティン・マクドナー」という名をよく耳にするようになりました。2017年のナショナルシアター・ライブで上映された『ハングメン』はローレンス・オリヴィエ賞受賞。2018年に日本でも公開された映画『スリー・ビルボード』はヴェネツィア国際映画祭で脚本賞、アカデミー書では6部門でノミネートされるなど、舞台も映画も国際的に非常に高い評価を受けています。そんなマクドナーの名前を聞いて、『本読み会』では密かに読みたい作家リストの上位に食い込んでいたのです
しかし、やはり目をつけるのが早い人は早いもので・・・
たとえば、処女作『ビューティークィーン・オブ・リーナン』は2004年に演劇集団円によって上演。2007年には長塚圭史演出、白石加代子と大竹しのぶのダブル主演でPARCO劇場にて上演されました。その後10年ほど間をおいて、2017年にはシアター風姿花伝で小川絵梨子演出『The Beauty Queen of Leenane』として再び上演されています。日本語で出版されているのは、やはり長塚圭史演出で上演された『ウィー・トーマス』と『ピローマン』(いずれもPARCO出版)の2冊。誰かもっとたくさん訳して出版してくれないか!
マクドナーの魅力は、すぐれた劇作家に共通するいくつかの手腕です。彼だけが有している特別な方法ではありませんが、それらを同時に複数持つのは極めて難しい。下記、思いつくままにいくつか。
- 演劇の基本である1対1の対話が基盤でありながら、それが集団や社会を象徴する普遍的なやり取りになっている。
- 念密な取材に基づいていた社会問題を描くが、同時に優れたエンターテイメント性をも有している。
- 非常に限定的な地域の話題、問題を描くが、それが世界中へ投げかけられる問いになっている。
- 初めて観る観客に対する楽しみと、何度も観ている観客に対する楽しみが戯曲の中に複数用意されている。
- 場面によって、観客が感情移入する登場人物が入れ替わり、劇全体が多面的、多層的な世界になっている。
- 悲劇だが、胸糞悪いバッドエンドではなく、観客が最後にカタルシスを感じられるようになっている。
言うは易し行うは難し。こんなの全部同時に達成するのは無理だぞと思いつつも、これをやってのけられる者だけが一流の劇作家なのでしょう。最近やや映画寄りになっているマクドナー、変わらずスリリングな戯曲を演劇界に残してくれることを願ってやみません。そして、日本で『マーティン・マクドナー戯曲全集』が出版され、多くの劇場がレパートリーに取り上げ、そのうち本人が来日して、戯曲にサインしてもらうまでは『本読み会』を続けてみよう。
今回の『本読み会』は、多くの方々のご理解、ご協力のもと開催することができました。おかげさまで大変濃密な時間を過ごすことができ、戯曲文化を存分に味わうことができました。末尾ながらお礼申し上げます。
(松山)