お待たせいたしました。
先日大野が行ってまいりました、プラハ・ロンドン年越し観劇旅行。
年明け以降に観た6本をご紹介する後編のスタートです!
(ちなみに上の写真は、ナショナルシアター前の、ハムレットの銅像です。)
前編:写真で観る!プラハ・ロンドン年越し観劇旅行(前編・2017年編)
ロンドン続き
ロンドンの年越しはテムズ川の花火、元旦はロンドン市内のパレードなどがありました。でも、そんなことより観劇です。
2018年1月1日 ソワレ
『Follies』(National Theatre)
@Olivier Theatre
すでに今年度のナショナル・シアター・ライブのラインナップに入っている作品です。ほとんどどんな作品なのか知らなかったのですが、「せっかくやってるんだし、NTLで観る前に現地で観ておいてやろう」と思って観てきました。ナショナルシアターには、3つの劇場が入っているのですが、その全てで元旦から普通にお芝居やっていました(休みは大晦日だけでした)。
劇場の他、たくさんのレストランやカフェ(飲食店は5つくらいあったはずです)、ショップなどが併設されていて、とても居心地良い空間です。
『フォーリーズ』の劇場は、館内で一番大きなオリビエシアター。前回来た際は、ピーター・シェファーの『アマデウス』を観た劇場です。
入場すると、物語の舞台となる廃劇場の外観が、舞台上にありました。
『フォーリーズ』、私は全く知らない作品だったのですが、あのスティーブン・ソンドハイム作曲のミュージカルです。有名な作品なんですね。1971年初演で、これまで何度も再演されてきているようでした。
ネットで調べていたら、かなり細かいあらすじ、プロットが(英語ですが)あったので、それを事前に読んでおきました。
読んでおいて正解でした。
ミュージカルなんですが、場面転換は少なく、多くの登場人物が自身の過去や心情を言葉で表現していく大人のミュージカルで、読んでいなかったら全く理解できなかっただろうと思います。
何とかかろうじて話についていけましたが、それでも少し分からない部分が・・・まあ、その辺りはNTLでおさらいできればと思いますが、英語の弱い自分では、舞台の良さが十分に伝わっていなかっただろうなと思います。
ただ、それでもラストシーンなどはハッとさせられる瞬間がありました。。NTL、公開されたら皆さん是非ご覧になってみてください。
カーテンコールは、やはりスタンディングオベーション。俳優陣から「Happy New Year!!」の声かけもあり、盛り上がっていました。
2018年1月2日 ソワレ
『PINOCCHIO』(National Theatre)
@Lyttelton Theatre
二日続けてナショナルシアターの芝居です。今度は、皆さんご存知『ピノキオ』です。これは出発前からすごい楽しみにしていた作品で、席もいいところを事前に抑えておきました。9,500円くらいしてます。
でも、それが安く感じるぐらいの傑作でした。
事前準備として、Kindleでピノキオの原作(日本語)を購入し、読んでいったのですが、結果から言うと、今回の芝居はディズニー版『ピノキオ』を元にしていて、原作のストーリーではなかったです。読まなくてもいけましたね。
ただ、原作すげー面白かったです。ピノキオがくっそ悪ガキなんですよ!ジミニー・クリケット、出てきて一瞬でピノキオに殺されたりして、あっけに取られました笑。
まあ、それはまた別の話ですね。
客席は、もう半分くらい子供でした。18歳以下はチケット半額になっているようで、大変騒がしい。すごくいい雰囲気です。
おなじみ携帯電話オフのアナウンスも
「電源をオフにしないとキツ〜いお仕置きがありますよ・・・」
「機内モードにしただけで、電源切ったなどというウソはつかない方がいいと思います。そう、特にこの芝居ではね・・・」
という感じで、客席をくすぐってきていて、ワクワクする感じでした。
肝心のお芝居は、これはもう舞台芸術の1つの頂点を成すと言ってもいい出来栄えで、とても子供向けのお芝居ではありません。ピノキオが人形劇団の座長に捕まるくだりや、幸せの国で子供らが堕落していく有様などは、観ている子供たちにトラウマを植え付けようとしているのかと思うくらい、混沌と恐怖のイメージが鮮烈でした。私など、休憩時は早く続きが観たくてワクワクして動けませんでした(私の中身が子供だからかも知れませんが・・・笑)。
一番感心し、また、感動したところを一つ挙げるとすれば、ピノキオを普通の人間が演じ、ゼペットやジミニークリケットなどを、マリオネットで表現していたところでした。これが物語のテーマ、枠組みにぴったりハマるんです。そして、そのマリオネットの所作が本当に美しい。
物語を表現するための仕掛け、思いもよらない工夫がこれでもかと詰め込んであって、「それを表現するためには、一切の妥協を排除します!」「持てる力の限りを尽くします!」という作り手の姿勢がビシビシ伝わってきました。
これがイギリスの演劇か、と度肝を抜かれます。これを見て育つ子は、演劇観が一回り大きくなることでしょう。信じられない表現力でした。
YouTubeのナショナルシアターのチャンネルなどには、(ほんの少しだけですが)動画もあるので、興味ある方は見てみてください。
2018年1月3日 ソワレ
『Aladdin』
@Prince Edward Theatre
この日は一日遠出をしていたので、夜疲れていてもあまり考えずに観られるようにと、ミュージカルを選択、演目もすでに原作の映画を観ている『アラジン』にしました。さすがのロングラン・ミュージカル。観光客だらけです。中東系やアジア系の方が多い。中国人観光客のグループは、特に多かったです。
芝居の中身は、予想通り、安定のミュージカルです。
歌は上手いし、お金かけててきらびやかだしで、一大エンタテイメントです。ジーニー役の俳優さんは、かなりの熱演で、楽しませてくれました。
ただ、前日の『ピノキオ』には、全く及びません。物語を表現するのに、『アラジン』はお金の力で押し切っている感じです。『ピノキオ』もお金をかけていることには変わりないのですが、ひらめきと工夫がその中心にある、そこが大きな違いでした。
また、『ヤング・フランケンシュタイン』と比べても、俳優さん、スタッフさんらの熱量が及ばないと感じました。『ヤング・フランケンシュタイン』の俳優たちは、バカをやるのに120%の力でぶつかっていました。こちらは、言い方は悪いですが、”こなしている”感が否めません。
やはり「ロングラン」になると、どうしてもそうなってきてしまうのかもしれません。
ちょっとネガティブな書き方になってしまいましたが、それでも存分に楽しめる作品であることは間違いありません。
魔法の絨毯に乗って”A Whole New World”を歌うシーンなど、これは一度見ておいて損はないです。本当に飛んでおりました。夢と魔法の世界ですね。
2018年1月4日 マチネ
『NETWORK』(National Theatre)
@Lyttelton Theatre
1日おいてはおりますが、年明け3回目のナショナルシアター。しかも、前々日の『ピノキオ』と劇場まで一緒です。この『ネットワーク』も、『ピノキオ』も、現在もまだ上演中。数日間ずつ、同じ劇場で、交互に上演しているんです・・・。こんな興行があるんかい・・・よくやるわ・・・、と驚きました。
さて、この作品、実は今回の旅で一番楽しみにしていた作品です。というのも、トネールフループ・アムステルダムを率いる演出家イヴォ・ヴァン・ホーヴェの新作なんです!
何度か『本読み会』の他の記事でも彼の名前は出しているので、繰り返しになってしまいますが、私はナショナルシアターライブの『橋からの眺め』で衝撃を受け、それ以来動向を気にし続けている演出家さんです。昨年の『オセロー』来日公演ももちろんチェックしました。
そんな彼の新作がやっているのですから、これは観ない訳にはいかない!・・・と思ったのですが、時すでに遅し。今回の旅行を計画し、チケットを予約しようと思った時には、すでに全日程完売状態だったのです・・・。やはりイギリスでも、かなり注目されているんですね。分かる、分かるよ。
でも、ここはナショナルシアター。フライデーラッシュと、デイチケット(当日券)があります(簡単にではありますが、こちらの記事の中程に両システムについての説明があります)。
頑張れば、チケット取れるんです。
今回は、ちょうど宿がナショナルシアターから徒歩10分(!)の好立地だったこともあり、デイチケット狙いで、早朝から並びました。
徒歩10分の立地を生かし、販売開始3時間前の6時半頃から並んだのですが、それでも先客がいました。イギリス人にもやばいヤツがいます。
でも、まあ無事にチケットは購入できました。かなり防寒対策していきましたが、やっぱ寒かったですね。販売15分前くらいからは、スタッフの方が劇場内に列を入れてくれて、天使が来たと思いました。最終的には、100人近く並んでいたんじゃないかと思います。
この『ネットワーク』という作品、原作は1976年公開の映画です。あらすじはネットなどでご確認いただければと思いますが、視聴率のために徐々に正気を失っていくテレビ業界の人々の姿を描いた作品で、大変評価も高いです。
私も、10年以上前ですが観たことがあって、細かい部分は忘れてしまっていましたが、とても好きな作品でした。今回の観劇に向けて映画をもう一度観ておこうかと思ったのですが、残念、ネット配信されておらず、時間的に観ることができませんでした。あらすじだけ再確認、観劇に臨みます。
さて、入場した瞬間、度肝を抜かれました!
舞台上に、レストランがあるんです。。舞台奥のガラスの向こうにキッチンがあって、コックが料理していて、そこからウェイターらが料理や飲み物を運んできて、それをお客(を演じている俳優たち)が食べているんですよ。
やべーな。みんな違うメニュー食べてるし、普通に奥で作ってる。これ興行中毎日やってるのか・・・。これみんな俳優だろ・・・予算どんだけかけてんだよ・・・。
日本じゃまずやらせてもらえない演出でしょう。規模が違います。一瞬で興奮しました。芝居が始まる前からもうやられました。
さて、舞台の下手側には、テレビ局のスタジオが。
開演前にすでに度肝を抜かれ、期待いっぱいになっていたのですが、開演後もその期待は裏切られませんでした。舞台の上で行われていることが、もう演劇の枠をはみ出しています。
例えば、上演中は、常に舞台上を複数のテレビカメラが中継していて、その映像が舞台奥のスクリーンに中継されていました。ある時はニュース番組、ある時はその裏側を切り取ったドキュメンタリー映像(もしくは盗撮映像)が放送されている感じです。一度など、劇場の外、テムズ川沿いまで俳優が出て、そこからの中継映像で芝居をつなぐこともありました。
そして何より、それらの芝居が圧倒的なリアリティで演じられていて、目の前で本当に起きていることにしか見えないんですよ。。
目の前に、狂ったテレビ人たちと、それを観る視聴者たち(レストランの人たちは、”視聴者”を可視化する仕掛けだと思います)がいます。そして、狂ったニュースキャスターは、我々観客にも、直接言葉を投げかけてくるんです。そして客席の我々の様子もまた、スクリーンに映ります。
もう、お芝居を観ている感覚ではなくなっていましたね。
放送されているテレビ番組と、それを放送している人たちと、放送を見ている我々と、それが混ぜこぜになってドラマになって、それでもなおかつ観客は混乱せずに、人々の狂態に笑い、恐怖して、引き込まれながら見続けることができていました。
あっという間の2時間でした!終わってみれば、社会の持つ狂気と暴力が描かれていて、しっかりホーヴェの舞台になっていました。『ピノキオ』とはまた違った種類の演劇でしたが、一つの頂点と感じた『ピノキオ』の高みをひょいっと超えてくる作品がポンと出てきてしまいました。
こんなことがあるんかい。あるんだな。
おそるべし、ホーヴェ。おそるべし、ナショナルシアター。おそるべし、ロンドン。って感じです。
主演のブライアン・クランストン、素晴らしかったですね。言葉が直接心に響く感じでした。感動しました。
そして当然、カーテンコールは満場一致のスタンディングオベーション。
大満足の一本でした。
あ、あともう一つ・・・これだけの舞台だったのに、この芝居、今回観た全ての芝居の中で最安値の15ポンド(2,200円)なんですよ・・・。
もちろん定価はもっと高いです。デイチケットの設定でこの値段なんです。
僕この芝居、2回目観られるなら、その10倍くらい出してもいいかもしれません・・・。一体値段ってなんなんだろう・・・。
2018年1月4日 ソワレ
『Antony & Cleopatra』(Royal Shakespeare Company)
@Barbican Theatre
2018年1月5日 ソワレ
『Titus Andoronicus』(Royal Shakespeare Company)
@Barbican Theatre
さて、この記事ももうだいぶ長くなってしまったので、あとはパパッと終わらせます笑。『ネットワーク』を観た後は興奮した脳を休ませる・・・こともなく、シェイクスピアを観に行きました。
今度は王立の劇団、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーです。
現在ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーでは、『ジュリアス・シーザー』『アントニーとクレオパトラ』『タイタス・アンドロニカス』の三作品を、ローマを舞台にした『ローマ三部作』として、同じ劇場でローテーションで上演しているんです。
日程的に三作品とも観ることはできなかったのですが、二日続けて、二作品を観ることができました。
劇場は、前回の観劇旅行の際も同劇団のシェイクスピアを観た、バービカン劇場。
この劇団の本拠地は、シェイクスピアの生まれ故郷ストラトフォード・アポン・エイボンにありまして、常打ちはロイヤル・シェイクスピア・シアターという劇場なんですが、ロンドンに芝居を持ってくる際には、よくバービカン劇場が使われるようです。きっと、劇場の規模など、条件が合うのでしょう。
『アントニーとクレオパトラ』も『タイタス・アンドロニカス』も、すでに読んだことある作品でしたが、Kindleで日本語戯曲を購入し、直前におさらいしてから行きました。結果、問題なく物語の展開についていくことができました。
やはり、読めるものは読んでから行った方が良いですね。
肝心のお芝居ですが、これはどちらもあまり楽しめませんでした。俳優さんたちは上手なんですが、どこかで観たことのあるようなお芝居という感じで、驚きがありません。
言葉は悪いかもしれませんが、『技術の高い学芸会』を観ているようで、垢抜けない印象です。
ただ、『タイタス・アンドロニカス』の最後の食事のシーンは、結構よかったです。鉄格子の前に家庭の食卓が出てきて、コック服を着たタイタスが、人肉料理を運んでくる。
洗練された不条理劇の匂いが急に舞台に溢れて、一気に魅力的になりました。
これらの芝居、ストラトフォード・アポン・エイボンのロイヤル・シェイクスピア・シアターで先に上演されて、その後ロンドンに持ってきているようなんですが、もしかしたら、そっちで見た方が面白かったかもしれないです。
あちらの劇場は、舞台の三方が客席に囲まれている特殊な形状なので、同じ芝居でも、もっとスタイリッシュに見えたかもしれません。
そんなことを考えながらの観劇でした。
まとめ
さて、以上で今回のレポートは終わりです。今回の滞在では、計10本の芝居を観ることができました。結構頑張ったと思います。
ちなみに今回の記事(後編)で紹介した芝居の料金ですが、
『フォーリーズ』・・・7,300円(少し安めの席)
『ピノキオ』・・・9,500円(良い席)
『アラジン』・・・8,000円(安い席)
『ネットワーク』・・・2,200円(デイチケット・破格)
『アントニーとクレオパトラ』・・・6,800円(そこそこ良い席)
『タイタス・アンドロニカス』・・・8,700円(良い席)
という感じでした。やっぱりロンドン物価高いですね。日本より少し高めだと思います。
芝居の内容で言えば、ナショナル・シアターの圧倒的な力を見せつけられたという印象でした。観た本数が多かったせいもあると思いますが、やはりイギリスを代表するカンパニーだな、と思いました。すごい。
感想としては、やっぱ英語が分からないと悔しい!ってことですね。視覚的に物語の展開についていけない場合は、やはり言葉の理解が鍵になります。
いつになるか分かりませんが、次の観劇旅行に備えて、英会話を勉強しようかなと思いました。
以上、長々とお付き合いありがとうございました。
今年度の『本読み会』は、1月27日の第69回シェイクスピア『リチャード3世』からスタートです。
どうぞよろしくお願いいたします!