ニューヨーク・ヤンキースの提示した巨額の年俸を蹴って、8年ぶりに古巣広島東洋カープに復帰した黒田博樹投手。現在カープはペナントレースで苦戦を強いられていますが、黒田を讃える「男気」という言葉が巷に溢れかえっております。
今回の戯曲、真山青果『御浜御殿綱豊卿』を読み解くには、まさにこの「男気」 がカギとなるのです。
真山青果の『元禄忠臣蔵』シリーズは、岩波文庫で上下巻に渡って出版されており、文字通り忠臣蔵にまつわる数々の戯曲が収録されています。『御浜御殿綱豊卿』は中でも随一の人気を博する演目です。
桜の咲き乱れる殿中。今日は年に一度の「お浜遊び」の日。華やかなお祭りに紛れて、吉良上野介の暗殺を企てる志士の一人、富森助右衛門は御浜御殿に忍び込みます。御浜御殿というのは、今の浜離宮ですね。これに感づいた徳川綱豊(のちの六代将軍家宣)は、助右衛門を問いただしますが、実はこの綱豊、赤穂浪士たちに目出度く本望を遂げさせてやりたいと願っているナイスガイなのでした。
助右衛門と綱豊、互いに目指すところは一緒なれど、己の立場、そして義の貫き方をめぐって激論を交わします。本心を決して言わずに本心を伝えようと言葉をつなぐ、非常に高度な心理戦が展開されます。
このあたりのやり取り、実は論理が高度すぎて何言ってるか分からなくなりそうですが、とにかくポイントは「男気」です。討ち入りが良いか悪いか、吉良を殺すか殺さないかが問題なのではなく、どうするのが一番「男気」なのかを議論しているのです。倫理観などを持ち込むと余計話がややこしくなります。
歌舞伎の台本を読むときは、心をぐぐっと江戸へもっていくのが肝要。
私は『本読み会』の帰り道に皇居の脇を通るのですが、この戯曲を読んだあとは、なんだか江戸城に見えるのです。
(松山)