「メディアは激おこぷんぷん丸」
9月15日、大型台風18号が日本列島を直撃。一時は開催も危ぶまれた『本読み会』でしたが、戯曲を読んでいる間はどういうわけか晴れ上がり、まるでギリシアの高い青空を思わせます。
第43回の『本読み会』は、古代アテネ三大悲劇詩人のひとり、エウリピデスの『メディア』に挑戦です。ちなみにあとの2人は、『オイディプス』のソフォクレスと、『オレステイア』のアイスキュロス。ギリシア悲劇はこの3人を覚えておけば、まあだいたいの用は足ります。
『メディア』が書かれたのは今から2000年以上も昔のこと。『本読み会』で扱ってきた戯曲たちの中でもぶっちぎりで古い作品です。
古代ギリシアの劇場は、崖や丘を切り崩して作られた野外劇場。そこには2万人にも上る市民が詰めかけ、年に一度の「ディオニソス祭」で上演される芝居を熱気で包んでいたことは想像に難くありません。芝居を観るというよりも、スタジアムで野球を観戦するような光景に近かったのかも。
ちなみに、ディオニソスというのは演劇の神様と同時にお酒の神様も兼任してます。もともと演劇はそういう大らかな神様の元でやってるんですね。
ギリシア劇の根幹になるのは、何と言っても「対話」です。
演劇史上初めて対話の形式を編み出したギリシア人たちは、登場人物と神の対話、登場人物同士の対話、登場人物と観客の対話、そしてコロスと言われるアンサンブルを担う俳優たちとの対話。全てが対話の中で表現されるため、たとえば暴力や殺人といった事件も舞台上で起こることはありません。
今日に至るまで演劇を演劇たらしめてきた「戯曲」という形式は、ここギリシアに起源を求めることができます。ギリシア劇がなければ『本読み会』もないですね。
祖国を捨てて夫に添い遂げる決心をしたメディア。しかし夫の心はいつしかメディアから離れ、あろうことか別の女性と結婚。逆上するメディアは夫だけにとどまらず、夫の新妻、そして自らがお腹を痛めて生んだ2人の子供たちまでも怒りの炎で焼きつくしてしまうのです。
いわゆる夫婦喧嘩に端を発するので、現代の私達から見ても「そりゃあ、メディア怒るわ」と頷ける一方、そのスケールは理解を超えるほどに大きく、国全体を傾かせてしまうほどの大惨事に発展します。
なんで子供まで殺さなきゃならないんだ。メディアは「怒っている女性」という人間の枠を超えて、いつしか「怒り」そのものへと昇華していくようです。
このレポートを書いているのは『本読み会』翌日の16日ですが、今日は台風18号が日本列島を直撃した日。河川は氾濫し、土砂崩れが各地で巻き起こっている様子をテレビで見るにつけ、手のつけられないメディアの怒りを思い出さずにはいられませんでした。
次回は晴れて、みなさん『本読み会』へ足を運べますように。
(松山)