いよいよこの旅最後の観劇。シェイクスピアの生誕地ストラットフォード・アポン・エイヴォンにある、ロイヤル・シェイクスピア劇場にて『ハムレット』を観てきました。
ロンドンからストラットフォードへ向かう車窓には果てしない田園風景が広がり、放し飼いにされた羊や馬などが牧歌的な雰囲気を醸し出します。ストラットフォードへ観劇に向かうときは、この道をたどってロンドンへ勇み走ったシェイクスピアに想いを馳せるのが、気分を盛り上げるポイントです。
と思ったらいつのまにか寝てしまった。2時間強ほどかけて到着。たった一人の、しかしとびきりの天才によって今も栄える町。水辺で鳥にエサをやりながら、「お前がいまエサをもらえてるのもシェイクスピアのおかげなんだよ。わかってるか?」と説教をたれつつ開演まで散策します。
今回の『ハムレット』を貫くイメージは「フェンシング」でした。ご存知の通り、最終幕に行われるフェンシングの試合がクライマックスとなる芝居ですが、これは一番最初の台詞「誰だ!」からフェンシングで始まります。亡霊もフェンシングのいでたちで現れ、「忘れるな」と自らのマスクをハムレットに託し、戴冠式のホールダンスもフェンシングのステップというように、最終幕へ向かってひとつずつ歩みを進める、あるいは最終幕から逆算するかのようです。
そして、フェンシングのいでたちといえばすっぽり頭を覆うマスク。被れば「顔が消える」。顔が消えるのは個人が消えること。個人が消える、つまり「匿名性」を帯びた復讐劇なのです。互いに顔が見えない相手と戦うという点に、演出の現代性があったのだと思います。
ハムレット役のジョナサン・スリンガーは策略をめぐらす知能犯としてのハムレットを好演。しかし中年太りがすぎて動きが緩慢なのが惜しい。ポローニアスのロビン・ソーンズと、クローディアスのグレッグ・ヒックスはやはり抜群の安定感。グレッグ・ヒックスは2年前の『本読み会』観劇旅行のときにもリア王役を演じていたベテランで、まーなんというか、ほんとに上手い。ともかく上手い。あきらめがつきますね。
そして今回のMVPですが、オフィーリア役のピッパ・ニクソンです。オフィーリアは悲劇のヒロインみたいにくくられがちですが、それじゃダメなんだ。神への信仰と父親への中心、宮廷での社会的服従、そしてハムレットへの愛など、多様なプレッシャーの間にいながら凛としていなくてはなりません。彼女はその危うい綱渡りを見事に演じていました。あれは売れるね。もう売れてるのかな?
全体として、気絶するほど良かったというほどではありませんが、わざわざ日本くんだりから出向くだけの価値は十二分にあったと満足しています。このレポートはともかく書き殴りでしたが、日本に帰ったらパンフレットを眺めてゆっくり反芻したいですね。そばでもすすりながら。
はじめまして!!
なにげなく、ネットサーフィンをしていたら、見つけました。
戯曲を読む会を開催されていらっしゃるんのですね。
私は、大阪の「古典戯曲を読む会」に参加しています。
「イギリス観劇日記」は、私が、ゴールデンウィークに観た舞台と同じだわ・・・と思いつつ、拝見しました。
(マクベスとハムレットが)
“OLD TIMES”は時期がずれて、観れなかったので、残念でした。
とっても観たかったので、うらやましい限りです。
”HAMLET”のピッパ・ニクソンについて書かれていたので、びっくりしました。
大ファンなんです!!
昨年のシーズンも彼女の、”KING JOHN”のバスタードと、”RICHARDⅢ”のレディ・アンを観まして、もうぞっこんです。
今年は、このオフィーリアと、”AS YOU LIKE IT”のロザリンドはサイコーでした。
これからの彼女の活躍に期待を寄せています。
大阪方面へいらっしゃることがあれば、こちらへもご参加くださいね。
少人数ですが、アットホームな雰囲気で開いています。
>>ありのすけさん
コメントありがとうございます。『本読み会』の松山と申します。
「古典戯曲を読む会」は、もしや名古屋や東京でも開催されているあの会でしょうか?たまたまうちの主宰が、先日東京の会に参加してきたばかりです。ご縁がありますね。
http://honyomikai.net/honyomikai/aside/2013/05/20/koten-tokyo-report/
毎シーズンRSCをご覧になっているのでしょうか?私もそうありたいと思いつつも、なかなか時間が取れず、今回のイギリスは本当に久しぶりでした。Old Timesは観られたのですが、ヤング・ヴィック劇場の『人形の家』を見逃してしまったのが心残りです。
機会がありましたら、大阪の会の様子など教えていただけると幸いです。
東西の戯曲を読む会が交流するのも面白そうですね。